喪失に対する子どもたちの反応
実親から引き離され、里親に託された年齢に応じて、子どもたちの反応や悲しみの表れ方は異なります。 また、その悲しみへの立ち向かい方も異なります。 一般に、親を失ったときの悲しみは「時間が解決してくれるもの」ではありますが、これは、生まれて間もない時期に親や愛着対象者から離された場合にのみに 言えることです。 子どもの喪失感は、必ずしも親との死別に起因するものではなく、親との物理的な別れによっても感じられることです。 親が実在しても、例えば、うつ病などの精神疾患や、親自身が幼少期に愛情に恵まれなかったことが原因で、子どもと接することができないことがあります。
喪失に対して子どもが反応する期間や度合いもまた、新たな親代わりがその子とどのような接し方をするかに左右されます。
初期の当然の抵抗 – 無表情実験(Still Face Experiment)
子どもたちは、里親が離れたリ、反応しなかったりすると、泣き叫び、機嫌が悪くなり、なだめて落ち着かせることが難しくなるといった反抗的な振る舞 いをします。 実際にこれは、よくある健全な反応であり、子どもの愛着システムが分離不安によって活発になり、さらに離れてしまうことを阻止しようとするためです。
この行動は、(マサチューセッツ大学の心理学者)エドワード教授の「無表情実験(Still Face Experiment)」でも実証されています。 この実験では、子どもに反応して協調的だった母親の顔が、突然に能面のような無表情になります。 赤ちゃんはすぐに母親の注意を引こうとしますが、たまらなくなって最終的に泣き出してしまいます。
この動画を通じて、母親の関心を得られなかった赤ちゃんが、どれほど強い不安感を覚えるかが分かります。
生後0~24ヵ月の乳幼児における分離不安に対する強烈な反応
引きこもりまたは分離不安の普遍化
愛着行動の欠如:
実親から引き離された後、他の愛着対象者が表れなかったり、親代わりの人がその子の泣き叫びに無反応であったりすると、その子は泣くのを諦め、見た目に落 ち着いていて、物事に関心を示さず、引きこもってしまうことがあります。 これは危険信号であり、愛着システムの働きが停止して、悲しみの状態を一生のトラウマとして抱えてしまうおそれがあります。 他からの親密な関係を築こうとする愛情や努力にも、あまり反応しなくなるか、または全く反応しなくなるおそれがあります。 またこれは、子どもの発育を抑制することにもなるため、うつ病や引きこもりの状態を引き起こすことがあります。 このような反応は、幼少期に養育者や愛着対象者の激しい入れ替わりを経験した子どもたちや、孤児院や病院施設など周囲との接触が限られていた子どもたちに 共通してみられます。
分離に対する過剰反応:
乳幼児は、例えば、親が泣き叫び、口論している間に警察官などによって親許から引き離されてしまった場合など、突然に親から離されて、それが極めて衝撃的 であった場合に、全般的なストレスと分離不安を抱えることがあります。 おそらく、乳幼児の愛着システムは、人生初期の1つ以上の精神的打撃が原因で、敏感になり過ぎ、「極度に活動的」になるのでしょう。 そのため、そのような経験をした子どもたちは、養育者がその場から居なくなったり、または単に背を向けたりするだけでも、極端に不安になり、パニック状態 に陥り、養育者がいつもそばにいることを確認し続けなければならなくなります。 分離に過敏になる子どもたちは常に、養育者にしがみつき、とても寝つきが悪く、養育者が日常的な生活の中で一時的にそばから離れただけでも、安心感を取り 戻すまでに長い時間を要します。 これは、里親に託されたばかりの子どもたちに多く見られる問題です。
これまでのことを振り返るための質問
- 里親に託されてから、引きこもりまたは極端な分離不安を呈する(呈した)子どもはいるか(いたか)?
- その子のそのような振る舞いはどれくらいの続いたか(それは治まったか、現在ではある程度落ち着いているか)。
- その子のそのような振る舞いは、その子に対する里親自身の感情にどう影響したか。
- 里親自身が、子どもたちに悲しい気持ちにさせられたり、拒絶されたりしたことはあるか。
- 極端な分離不安を呈する子どものそばを一時的に離れる際に、不安を感じたことはあるか(例えば、1分間だけ乳児のそばを離れるなど、日常的な生活の中でよくある一時的な「別れ」)。
- その子が里親に反応しないとき、または里親がそばを離れることに不安を感じて里親に常にしがみつくときに、里親はどのように対応しているか(したか)。