トピック B: 安心感を与える養育者の在り方
子どもたちにつながりを教える仕事に力を入れる際に、最適な行動とは何か。
つながりを教える仕事をする、ということよりも、それをどうやるか(つながりの質)が大切なところです。
赤ちゃんと心を通わせるやり方(特に、生後2年間)は、学習プロセスであり、それを通じて、赤ちゃんは、分離との向き合い方と、他の人とのつながり方を覚 えます。 これは、最初の養育者から学ぶものであり、幼少期の養育者とのつながり合いが、子どもの愛着パターンを形成します。
安心感を得られた子どもの健全な愛着パターン
養育者が安全基地として機能すると、その子はその養育者が離れようとすると悲しくなりますが、それは一時的なことです。 セッション4の「愛着」についての説明のように、この子はすぐに、養育者のもとから離れて、遊戯や探索をして長い時間を過ごすようになります。
良い養育者に育てられた幼い子には、健全な愛着パターンが形成されます。
この子どもは、成長するにつれて、自分について楽観的な考え方や、他の子どもや養育者など他の人を前向きに信用する姿勢を身に付けます。 また、必要にときに、愛情や助けを求めるようになります。
他の子どもたちと遊ぶことができるだけではなく、つまらなくなると、それまで一緒に遊んでいた子から離れて、また他の遊び相手を見つます。 また、他の養育者よりもある養育者に愛着を感じ、その養育者をより好んだり、他の子どもよりもある子どもを好むこともあり、そのようにして友達関係を築いていきます。 この子が成長すると、社会的な人間関係でも、十分に能力を発揮することでしょう。学校や他の施設でも可能な限りのことを学ぶことができるでしょう。
これは、養育者が、乳幼児が安心できる方法でつながりを持てた場合にのみ、実現されます。
「安全感を与える接し方」とはどういう意味か。
子どもが安心できる関係を与えて、子どもの健全な愛着パターンを促すために「養育者がすること」について、科学的研究が行われています。 それについて説明している動画をここで紹介します。
ビデオ 1
子どもが安心できる関係を与えて、子どもの健全な愛着パターンを促すために、養育者がしていること: 赤ちゃんが触れ合いを求めているときに反応し、 養育者は率先して赤ちゃんと触れ合い、刺激を与えています。 耳に心地良い声で話しかけて、顔の表情を変化させて感情をわかりやすく表現します。 目を合わせて話そうとします。
ビデオ 2
子どもが安心できる関係を与えて、子どもの健全な愛着パターンを促すために、養育者がしていること:敏感に反応しています。 日課的な仕事(食事、着替え、歌/遊戯など)をしながら、子どもの感情を読んで、柔軟に仕事をはかどらせ、子どもの気持ちが沈んでいるときには、あやしながら靴を履かせるが、子どもの機嫌がよいときには、靴を履くことが遊びにもなります。 敏感になるということは、規則やいつものやり方に従うことにこだわりすぎず、その時々に子どもが感じていることを理解し、それに合わせることで、子どもの意欲を掻き立てるということです。
ビデオ 3
子どもが安心できる関係を与えて、子どもの健全な愛着パターンを促すために、養育者がしていること:敏感に反応しています。 日課的な仕事(食事、着替え、歌/遊戯など)をしながら、子どもの感情を読んで、柔軟に仕事をはかどらせ、子どもの気持ちが沈んでいるときには、あやしながら靴を履かせるが、子どもの機嫌がよいときには、靴を履くことが遊びにもなります。 敏感になるということは、規則やいつものやり方に従うことにこだわりすぎず、その時々に子どもが感じていることを理解し、それに合わせることで、子どもの意欲を掻き立てるということです。
ビデオ 4
養育者は、子どもの喜怒哀楽を一緒に感じるながらも、子どもと同じ表現の仕方はしない。 子どもが興奮していたり、怒ったりしていても、養育者が興奮したり、怒ったりすることはなく、いたって、落ち着いています。 子どもを叱ったり、または罰を与えたりしません。 養育者の表情が堅くなることはありますが、子どもと一緒になって怒らず、優しい落ち着いた声で子どもに話しかけます。 子どもが機嫌を損ねているときに、養育者も機嫌を損ねると、子どもはもっと不安になります。
ビデオ 5
養育者は、子どもが感じていることや考えていることに関心を示し、それを「表現する」ことを試みます。 赤ちゃんが言葉を理解できるようになる前でも、養育者は仕事をしながら(おむつを替えながら)、子どもが感じていることや考えていることについて話しかけます。 例えば、赤ちゃんが養育者を見つめると、「あら、わたしを見ているの?うれしいわ。ご機嫌ね、そうでしょう?」といった話しかけをすることがあります。 または、おむつ替えをしながら、 「新しいおむつは気持ちがいいわね。おむつを替えてくれて「ありがとっ」って顔しているわね。」 このような接し方をすると、赤ちゃんは言葉と感情の結びつきを覚えて、自分自身や他の人のことを理解することを学びます。
これまでの実践を振り返るための質問
普段、 ふれあいを求める子どもたちに、もっと気を配って反応するとことができるのは、どのようなことをしているときでしょうか。
相互の触れ合い: 里親と里子の相互のふれあいを促進するために、十分に気を配るために毎日していること(合唱、遊戯など)はありますか? 赤ちゃんの世話(日課的な仕事)をしているときに、どうすれば相互に触れ合うことができますか?
感情に敏感に反応する:日課的な仕事(食事、着替えなどの世話)をしてきるときの特定の子どもの反応について考 えてみます。 その子の世話をするときに、最も効果的にその子に関心を抱かせられる方法は何ですか? どうすれば、その子の感情に敏感になれますか。里親がどのような行動をすると最も効果がありますか?
子どもにとって身近な存在になる: 子どもが里親の関心や助けを必要とするとき(恐怖、不安、不満、痛みなどで)、その子は、里親がそばに来てくれるまでに、どれくらい待たなければなりませ んか? 子どもが助けを必要としている場合には、決まりに則るだけではなく、その必要に応じて対応しなければなりません。 里親2人で大勢の子どもたちの世話をしている場合に、この課題をどう克服すれば、子どもたちにとって可能な限り身近な存在になれるのでしょうか?
子どもと同じ感情を持つのではなく、子どもの気持ちをくみ取る: 子どもが不快に感じたり、怒ったり、絶えず口論したり、イライラしたり、八つ当たりをしたりするのはどんなときですか? その子の感情は、自分にどのような影響を与えて、自分はどのような反応をしていますか? その子に聞き分けがないときや極度に興奮していても、何が起こったかを考えて、落ち着いて、動じずに、優しくするには、どうすればよいですか? 子どもたちのどのような行動が、自分を怒らせたり、イライラさせたりしますか? 興奮している子どもたちと一緒になって興奮しないためには、特にどのようなことに注意すればよいですか?
子どもの考えていることや感じていることを反映する: 子どもたちの世話をしながら、子どもたちにどのように話しかけますか?例えば、 子どもの世話をしているときに、その子に、そのときにしていることについて話かけます。 「じゃあ、このおもちゃで遊んでみましょうか。〇〇ちゃんは、このおもちゃを初めて見るから、少し怖いかな?でも大丈夫よ。どんなおもちゃが一緒にみてみ ましょう」、あるいは「いま、哺乳瓶でミルクを飲んでいるのよ。とてもお腹が空いていたのね。ミルクを飲むのはとてもいいことなのよ。幸せな気持ちになる でしょ?」
提案(実践計画のヒント)
- どうすれば、子どもたちとのつながり方(相互の触れ合い、感情への敏感な反応など)を改善できるかについて考える。
- どうすれば、「つながりを教える仕事」に改善をもたらすことができるか、日常的な例を挙げて考える。
- 「つながりを教える仕事」を改善するにあたり、特にどのような問題があるかについて考える(例えば、「忙し過ぎる、何か新しいことをするのは困難 である、私一人だけで大勢の子どもの世話をしているなど)。また、どうすれば、その問題のいくつかを克服することができるかについても考える。
- 子どもが安心する養育者の行動を実践するにあたり、どうして従来の否定的な態度が障壁になるかについて考える。例えば、
- 「私の両親はいつも私を叱りました。だから、それをしないで済むやり方がわかりません」
- 「あくまでも仕事であるため、子どもとの個人的なつながりを持つべきではない」
- 「私たちには、すべてのことを実践する時間もエネルギーもありません」
- 「子どもたちが私に愛着を感じ始めたら、私が離れようとすると悲しい顔をするし、私も悲しくなる」
この障壁として挙げられた理由は、どれもある程度、もっともな理由ではありますが、改めなければならない考え方や習慣であり、どれも子どもの成長に とって良いことではありません。 自分の両親から受けたケアがあまり良いものではなかったとしても、良い養育者になるための実践をすることは、今からでもできることです。
子どもたちと個人的なつながりを持つことや、里親への愛着を持たせることは、里親としての仕事に含まれます。 愛着対象となった里親が子どもから離れようとすると、子どもは確かに悲しい表情を見せることはありますが、それも人生の一部です。誰とも個人的なつながり を持つことを全く覚えないよりは、ずっと良いことです。
孤児を迎え入れた場合は、里親が「親代わりの愛着対象」にもなります。
質問:
日常の活動を新しいやり方に、どう整理すれば、「つながりを教える仕事」ができるかについて考える。
- 「時々、忙しいことがあるし、あまり気にかけてあげられないので、仕事を分担してみてはどうですか。そうすれば、気にかける余裕ができますし、もっと構ってあげられると思います」
- 「子どもの数が多いので、みんなで一緒に何かをしながら、その中で、一人ひとりに気をかけられることをします。 例えば、複数の子どもの面倒をみているときは、里親が1人の子どもと何かをする様子を他の子たちがみんなで見られるようなことを考えて、それを毎日(午 後)やってみてはどうでしょうか」
安全基地と探索: 子どもの遊びと他の子どもとのふれあい
乳幼児が、あまり不安を感じずに離れるということを覚えると、その子どもに安全基地が確立されます。
安全基地を持つ乳幼児は、分離不安のために泣いたり、しがみついたりすることに全力を費やさなくなります。 乳幼児と接するときは、最初はその子どものそばにいて、あまり動き回らないようにします。
養育者がそばにいることで、その子は穏やかになり、養育者が居なくなってしまうことへの不安を抱かなくなります。
その子どもに安全基地を与えることができてはじめて、「探索」という他の行動が見られるようになります。
養育者がそばにいることで穏やかになり、「愛着システム」の「電源」が切れて、「探索システム」という新たなシステムに自動的に電源が入ります。
養育者が居続ける安全基地を確保した子どもは、養育者のそばから離れて、おもちゃで遊び、何かを学び、身の周りを探検し、好奇心を持ち、他の子どもたちと ふれあい、小さなことに挑戦し始めます。これを、探索行動と呼び、子どもの成長には極めて重要な行動です。 健全な子どもは、安心するまでの間、一時的に養育者にしがみつきますが、次第に、遊んだり、探検したりすることを始めます。これは、身の周りのことを学び、大きくなってからの教育と学習の意欲を身に着ける唯一の方法です。 そのため、安全基地を確保した子どもたちは、分離を避けることに全力を尽くす子どもたちよりも、多くのことを学びます。例えば、子どもを、新しいグループの仲間に入れようとすると、最初は、養育者の足にしがみついて泣く(愛着行動)傾向にありますが、養育者がその場に穏やかに留まれば、その子は養育者のもとから這い出て、おもちゃで 遊び、他の子どもたちとふれあう(探索行動)ようになります。そのときに、養育者が立ち上がり、その場を離れようとすると、その子は養育者のもとへ戻ってきて、しがみついて、養育者がその場から離れようとするのを阻 止しようします(愛着行動)。