トピック B: 安全基地モデルに基づいて乳幼児に刺激を与える環境の計画
「私が面倒を見ている子の中に、いつも頭を振って、手の裏をなめる男の子がいました。 以前にもこのような子がいたので、知的障害なのだろうと思っていました。 私は、この子に対して、このセッションで学んだ方法をより多く、より頻繁に、念入りに使いました。 この子は今では、ちゃんと座わっていられるようになりましたし、手の裏をなめたり、頭を振ったりということをしなくなりました。 でも、この子はまだ時々、爪を噛みます。 これもきっと、近いうちに克服できると思います。」
- スタッフの体験談 -
施設では大抵の場合、大勢の乳幼児の養育を少数のスタッフが担います。
そこで、2つのことがとても重要になります。
- どうすれば、全般的に刺激的な環境(特に日中)を作ることができるのか。
- 普通の母親が当然のことのようにする物理的接触を可能な限り乳幼児に与えるための時間が限られているときに、乳幼児に刺激を与える「母親ツール」をどのように使うことができるのか。
ここからのセッションでは、実践活動についての数多くの提案が示されます。それを参考にしながら、職場に即した実践活動に調節していきます。
場合によっては、数多くの新たな習慣(やり方)として定着するまで、このプロセスを何回も繰り返して、調節しなければならないことがあります。 日常的な習慣を変えようとすると、最初は混乱して、波に乗るまでは大変なこともありますが、できるところから改善していきましょう。
刺激的な環境改善のための提案
- 「ファミリーグループ」: 日中に乳幼児がベッドにいるのは昼寝の時間だけ、という要素を組み込んだ活動スケジュールを立てます。 昼寝の時間以外は、柔らかい床面(敷布団、カーペットなど)に、複数のスタッフがそれぞれ、赤ちゃんを膝の上に抱えて、座椅子またはそのまま床面に座りま す。幼児はその周辺で遊びます。ここで、この状態を「ファミリーグループ」と呼びます。 これは、何千年もの間、少人数の女性で複数の乳幼児の世話をする際にとってきたやり方です。
自問自答: 私生活において3~4人の女性で大勢の乳幼児の面倒をみるとしたら、その日1日をどのように計画しますか。1日を過ごす部屋の装飾や見た目はどうあるべき ですか。 施設の部屋は「おうち」のような雰囲気にするべきであって、「施設」のような雰囲気であってはなりません。
- 子どもたちを抱きしめたり、優しく肩を叩いたり、手を持ってぐるぐる回ったり(メリーゴーランド)、手をつないで散歩をしたりと、物理的な接触を促すことが習慣的にできる環境を作るには、どうすればよいのか。
赤ちゃんを頻繁に抱っこやおんぶで運んだり、膝に抱えて座ったりすることを、どうしたら習慣的に行うことができるのか。 どのような道具(例えば、抱っこひも/スリングなど、スタッフの体に取り付けられるものなど)を使えば容易になるか。
ベッドの改良、またはハンモックや揺りかご(クレードル)との交換
- 皮膚への刺激を高めるフランネルやタオル地のブランケットを使用することで、普段使っているベッドをいくつかの方法で改善することができる(ベッ ドが温かくなりすぎないように注意する)。(1)ベッドの手すりの2ヵ所にかけられるハンモックを作ると、そのままベッドのマットレスの上にハンモックを かけて、自由にスイングできるため経済的である。 (2)ベッドは活用せずに、柔らかいマットレスや布団を床上に置いて、ハンモックを使う。 (3)赤ちゃんが起きているときに身の回りを観察できるようにベッドを改造する。幼児向けには、室内または庭のマット レスの上にハンモックやスイングを置く。幼児がバランス感覚を養う時間を日課に入れる。 これを計画する際は、ハンモックやスイングを特別な部屋に置かない。 普段の生活空間になければ、子どもたちが興味を示さない。 スタッフが過ごしている場所にできるだけ近いところに置くとよい。 どうすれば、遊び場にブランコ、回転木馬などのバランス感覚を養う遊具を作ったり、入手したりすることができるのか。
- どうすれば、ベッドの周りに、赤ちゃんの注意をひくもの(モビールなど)を吊り下げることができるのか。それができなければ、赤ちゃんが起きているときに眺められるものを探さなければならない。
- どうすれば、壁を明るい色や(今までとは)異なる色に塗り替えて、ものや写真を壁に貼ることができるのか。
- どうすれば、自作の歌や音楽を使うことができるのか。 赤ちゃんのために歌うことや、幼児と一緒に歌うことは言語発達に不可欠である。 子守唄は、赤ちゃんの脳に大きな安らぎを与える作用がある。 スプーンやバケツなど身の回りのものを使って、リズムを作り出すことができる。
ラジオやテレビ
一般に、ラジオやテレビからの音声は、赤ちゃんをとても困惑させます。赤ちゃんが言葉を学ぶためには、話している人の音や動きを結び付けて覚えなければなりません。
ラジオやテレビの音声が赤ちゃんを困惑させる理由は、その音声が、養育者とその子がしていることに結び付かないからです。 雑音もまた、赤ちゃんにとって、養育者の話すことを聞いたり、話す様子を見たりということが難しくなる要素です。
ラジオやテレビは、幼児だけに限定して、しかも短時間に限る必要があります。 幼児が何かを見ているときは、幼児が見ているものについて話しかけなければなりません。
「たくさんの習慣が変わりました。 私たちは、赤ちゃんたちに抱き癖がついてほしくありませんでした。 いつも3~4人の赤ちゃんが一斉に泣き出して、私たちは気が狂いそうだったからです。 そこで、まず固定されていたベッドを、揺りかご式のベッドと入れ替えました。 おむつ替えも、いつも寝ているベッドから離れた別の場所でするようにしました。 このおかげで、赤ちゃんの後頭部を刺激する機会を作ることができ、 赤ちゃんの睡眠時間も安定してきました。」
- スタッフの体験談 -
話し合いと反省
(20分間)- 普通の「おうちのような」環境と「家族のような」接し方に向けて改善していく上で、難しいことは何か。 (そのように施設環境を変えることに)誰か(リーダー、訪問者、その他)が反対するか。 どうすれば、それがなぜ保育の実践に役立つかを関係者に説明できるか。
- スタッフがグループになって、実践することは難しいか。 難しければ、その理由は何か。 この実践の展開にあたってお互いをサポートするために、何ができるか。
- (上述の)提案内容の中で、スタッフが既に実践していることはどれか。
- 実践していなことがある場合、その中で最も実践しやすいのはどれか。
- それをやってみようとするとき、現実的に問題になることは何か。
- どうすれば、その問題を解決できるか。
- 子どもたちが新しい環境と刺激に慣れる時間を与えられるように、変化のスピードをどうやって調整するか。