トピックA:0~3歳
乳幼児が喪失を克服するための手助け: 分離反応の度合いを軽減する
スタッフの仕事としての目標は「子どもを常に喜ばせること」ではありません。 分離への反応の度合いを徐々に軽減することができれば、その子が正常に反応するよう促せたことになります。 完全に引きこもり状態になるのは健全ではありませんが、少し内気で敏感になるというのは正常です。つまり、反応の度合いが異なります。 スタッフが離れるときに極端なパニック状態に陥るのは正常ではありませんが、泣いたり、悲しい表情をみせたりするのは正常です。
ここで、いくつかの提案を参考にしてみましょう。 どの提案が役に立つかは、スタッフと乳幼児の個々の関係によります。 ここでは、「正しいこと」をしようとするのではなく、 自分たちのやり方で解決策を慎重につなぎ合わせて、それに対してその子がどう反応するかを記録することをお勧めします。
接し方の提案
- 日中に、同一のスタッフが乳幼児を可能な限り一貫して担当できるように、施設の作業計画(スケジュール)を変更することが可能かどうか(例えば、スタッフ2人一組で一定人数の乳幼児グループを担当することが可能かどうか)を話し合う。
- セッション4のトピックBで説明している「安心感を与える養育者の在り方」の5要素を実践する。 引きこもりやスタッフへのしがみつきの度合いが極端な子と接していると、スタッフにもストレスがたまってしまうため、 スタッフは定期的に、自分が感じていることを同僚に打ち明けて、子どもが正常に反応しないことに振り回されないようにする必要がある。
- 物理的接触を活用する。ベビーマッサージや抱っこといった物理的接触は、愛着システムの正常機能を刺激する。 子どもに健全な愛着行動が見られる(抱っこ、キス、ひざの上に乗る、スキンシップなど楽しめる)ようになるまで数ヵ月または1年を要することがあるため、 根気よく接する (セッション3を参照のこと)。
- 乳幼児と接するスタッフは感情表現を意識的に豊かにして、場合によっては大げさに表現する。 「無表情実験」の前半で母親が赤ちゃんと接するときの声や身振りを参考にする。
- 乳幼児に「いつもそばにいる」ということを教える。正常な子どもたちよりも安心感を強く必要としているため、一緒にいる時間を長くするとよい。
- 乳幼児と頻繁に「かくれんぼ」をして遊ぶ。 このような遊びは、「ひとりにされる」を楽しいことと感じられるようにすることができる。 かくれんぼを通じて、子どもたちはスタッフの「内的表象」を形成し、スタッフがいつもそこにいると感じられるようになることでスタッフが実際にそばにいな くてはならないという状況から解放されることになる。 また、物を隠して、その子に探させるという遊び方もあり、これは、目に見えるところに人がいない、物がない、または聞こえないことがあっても、そこにある ということを覚える上で有効です。
- 乳幼児がある程度の年齢に達したら、 就寝時に「いってらっしゃい」ゲームをすることもできる。これはスタッフが乳児の部屋を出るときに、子どもたちがスタッフを部屋から送り出すけれども、不 安になったらスタッフを呼び戻すというゲームである。 このような遊び方をすると、子どもが一方的に「捨てられる」という感覚から、自発的に「離れる」ということをコントロールしているかのような感覚が得られ る。 また、「送り出す」という勇気のある行為を褒めて、呼び戻されるまでの時間が長くなるように工夫するとよい。 場合によっては、スタッフをひもでつなぎ、子どもたちがベッドに引き戻すという遊び方も考えられる。 このゲームを楽しみ遊びにすることが肝心である。
上記の提案をどのように組み合わせるかを決めて、記録し、実際に試してみて、子どもたちそれぞれが、どの組み合わせにどう反応したか(最も効果的な ものはどれか)を記録してください。 ビデオカメラやビデオ機能の付いた携帯電話を使用して、実践している様子を撮影し、子どもたちがどう反応しているかを確認するとよいでしょう。 撮影の際は、子どもたちにカメラを寄せると、表情をしっかり捉えることができます。
3歳未満の子が委託されたときに予想されること
一般に、3歳になる前に(適切な養育環境に)委託された子どもの愛着は柔軟な傾向があります。 多くの場合、特定の養育者が一緒に長い時間を過ごすことができれば、乳幼児は、その養育者に愛着を持つことが可能です。 実親への愛着パターンを忘れて、新しい養育者への愛着パターンを身に着けることが極めてよくあります。 3歳を超えてから託された子どもに比べると、性格や社会的能力の発達も養育者に似る傾向があります。 ただし、乳幼児には、施設のスタッフとの絆を感じ始める前に、実親の喪失という出来事を乗り越えるための時間が必要です。