Fairstart Global - JAPAN -
家庭外に置かれた子どもたちを養育する施設スタッフおよび里親のための「フェアスタートトレーニング」

多様な境遇を子どもたちが理解できるようにするための - 接し方とその提案

トピックA: 自力で育てることを願っても実際にそれが可能かどうかは別問題

子どもの気持ちに配慮し、親を尊重する専門的な話し方として、託された子どもに事情を説明するときは、以下のような話をするとよいでしょう。

「実親は我子を大切に育てたいと常に願い、それは誰もが分かっていることではあるけれども、 残念なことに、その願いがどれほど強くても、我子が必要とする愛情を注ぐことができない親もいる。 実親は我子を愛しているけれども、何かしらの問題(例えば、母親がどれだけ努力してもアルコール依存症から抜け出せないなど、子どもに分かる言葉で説明す る)を抱えている。

だから、実親は、親としての責任を果たすために、我子を施設に託すという、とても難しい決断をした。
ただし、実親が施設に単に申し入れたのではなく、実親自身が問題を抱えていることを認識して、我子を守るために助けを求めた。

だから、実親は我子ために最善を尽くしたことになる。 施設のスタッフに対する実親の怒りや嫉妬は、我子を取り戻したいという気持ちの表れであり、我子を愛しているからこそ、他の誰かに託さなければならないこ とが心苦しい。 自分で育てるのは難しいことだと分かってはいるけれども、できることなら自分たちで育てたいという気持ちでいっぱいである。 だから、施設側は、託さなければならない実親のことを非難せず、我子を施設に託すという正しい決断をしたことについて気持ちの整理ができるように手助けしている。」

トピックB: 生みの親と育ての親の両方を持てることは幸せなこと

子どもが状況を理解するために、子どもたちに以下のような趣旨の話をすると、施設スタッフと実親への忠誠心の衝突を避けることに役立ちます。

「子どもの幸せを願う親がいて、施設にもその子の幸せを願う人がいる。これは幸せなことである。 母親は、9ヵ月もの間、お腹の中にいたその子を大切にして、産んでくれた。これは素晴らしいことである。 実親が疲れ果てどうにもならなくなったときに、その子を施設に託すことにした。 だから、その子は、産んでくれた親と育ててくれる親代わり(施設スタッフ)の両方を持つことになる。 実親にできないことをスタッフが代行し、スタッフにできないことは実親がする。実親とスタッフの意見が合わないことも時々あるが、それは、その子のために最善を尽くしたいという気持ちがあるからである。」

トピックC: 「わたしはだあれ」ジグソーパズル

はさみ、セロテープ、大きな紙(模造紙等)数枚、新聞紙、および色鉛筆/クレヨンを用意します。 粘土、石こう、レゴなど、他にも使えそうな材料があれば、適宜、使用してください。

このアクティビティは、5~15歳向けです。
数日または数週間をかけて取り組むことができます。また、子どもがある程度の年齢に達したときに改めてこのパズルを作らせると、子どもたちの心情を垣間見ることができます。

  • まず、子どもに「今までにその子の身近にいた人物全員」を紙に描いてもらいます(名前、通称、シンボルなどで表現してもよい)。 身近にいた人物をペアにしたり、グループ分けしたりする場合は、ペアまたはグループごとに色を決めてください。

「今までにその子の身近にいた人物」には、祖父母、両親、兄弟姉妹、以前の施設のスタッフ、出産に立ち会った助産婦や医者、現在の施設のスタッフ、その施 設で暮らす他の子ども、愛着を感じているペット、隣人、他の施設の子ども、同級生などが挙げられますが、この限りではありません。
子どもたちにヒントを与え、たくさんの人が思い浮かぶように、時間をかけます。また、描いたものを見渡せるようにします。

次に、子どもが描いた人物やグループについて、簡単な質問をします。 子どもはそれに一言で回答しなければなりません。 その一言回答を、その人物またはグループのところに書き入れます。

  • この人物(グループ)との最高の思い出は何か。 (砂場あそび、花火、遊園地、ピクニックなど)
  • この人物(グループ)の良いところは何か(美人、髪型、声、愛情、親切、強い)
  • この人物がその子にしてくれたことの中で、最高のこと/一番嬉しかったことは何か(産んでくれたこと、誕生日を覚えていてくれたことなど)
  • この人物に面白いところはあるか、どんなところが面白いか (歩き方、話し方、変わった癖など)
  • この人物がくれたもの/教えてくれたことの中で一番良かったことは何か(勇気、強さ、忍耐、健康、赤毛など)

「わたしはだあれ」ジグソーパズルの作成

次に、新しい紙を用意して、子どもに自分の特大シルエットを新しい紙いっぱいに描かせます。 そのシルエットに、その子の名前またはシンボルを書き入れて、以下のことを、その子に分かる表現にして説明してください。

「これで「わたしはだあれ」を始める準備が整った。 何かを与えてくれた人たちのおかげで、今の自分がある。 言うなれば、私たちは誰かにもらった大事なものを荷台に積んで走るトラックのようなものである。 自分が誰かを知るには、他の誰かが自分にくれたものが何かを確かめればよい。色んな人から色んなものをもらっているはずである。 たくさんの人に出会ったのだから、それをどう理解するかはちょっとした挑戦である。」

続いて、人物/グループと一言回答の大紙を、子どもに切り分けてもらいます。人物/グループごとに一言回答も一緒に切り分けます。この切り分けた部分がジ グソーパズルの各ピースになります。それを先ほど作ったシルエットに合わせていきます。 各ピースをシルエットの適切なところに合わせます。 例えば、「愛情を注いでくれた人物」のピースは、「心(心臓)」のところに置きます。 「話を聞いてくれた人物」のピースは「耳」のところに置きます。

ピースを置くときに、ピースをはさみで切って形を調節すると、シルエットにきれいに収まります(例:耳ならば、耳の形にする)。 ピースを合わせながら、「現在の施設のスタッフ」のピースと「実親」のピースを指して、この2つをどこに置いたらよいと思うかをその子に問います。その際 に、この両者が「お互いに収まる」ということを悟らせるために、両ピースが上手に収まる形に整えられるように手助けするとよいでしょう。

ピースをすべてシルエットに置くことができたら、「わたしはだあれ」と言って子どもの注意を引きつけます。

完成したパズルはその子を表し、ピースの一つ一つがその子を形成するものを表します。それらを指しながら、例えば、 「あなたの名前は「ジャック」。ジャックは、ひょうきんで、強くて、赤毛。寝る前のハグが上手にできる人」とその子のシルエット、つまりジャック君には誰 かにもらった良いところがいっぱい詰まっている、ということを前向きに表現するとよいでしょう。

この完成図を子どもの部屋や共有スペースなど、毎日、目につきやすい所に飾り、それについてその子との対話を深めていきます。 それを通じて、調節/克服していかなければならないことが明らかになることがあります。

このパズル作りを子どもたちと一対一で実施するほかに、子どもたちをグループに分けて実施することもできます。 それを通じて、子どもたちがお互いのことを理解し、施設で暮らす子どもたちの共通の課題を共有・比較・理解することができます。

トピックD: アイデンティティ形成の過程を考える

10歳以上の青少年期の子どもたちとは、以下の動画を一緒に観ます。 動画に登場するスザンヌさんが話してくれたことについて、スザンヌさんが異なる養育者との体験を基にして独立したアイデンティティをどのように形成したかを、子どもたちと話し合います。 このプロセスでは、青少年期の子どもたちと、スザンヌさんの複数の養育者と引き裂かれた経験について話し合うほか、施設に似たような経験によって悪影響を受けた子の実例を挙げて、その子がそれにどのように向き合い、自分のことや他の人のことについての自分の考えをどう形成するかについて話し合います。

トピック F: 子どもたちのプロフィールビデオの作成

上記の動画を見て、話し合いをした後、子どもたちにビデオカメラ(またはビデオ機能付きの携帯電話)を使用して、スザンヌさんの動画のように、自己紹介、愛着している人物のこと、さらに実親と施設スタッフなど、生みの親と育ての親が複数いることをどう思うかについて、独自の動画を作成します。 これは、生みの親と育ての親の両方をもつことに子どもが折り合いを付ける過程でもあります。 ビデオを使わずに、作文にしても構いません。 ビデオでも作文でも、子どもたちがそれを友人、家族、同級生に発表するように奨励するとよいでしょう。 また、同年代の子どもたちよりも経験豊富であることについて、子どもたちが自尊心を高められるように働きかけるとよいでしょう。

このビデオ作成または作文は、子どもとスタッフが一対一で実施することもできますが、定期的なグループ活動にすると、施設で暮らすということへの心境やそれに伴う課題を明らかにする効果的な機会になります。 また、子どもたちの状況を取り上げた寸劇にして、 施設外の人を招き、施設で暮らすということがどうことかを発表する機会を作ることもできます。

この活動の目的

これらの創作活動には、施設のスタッフが子どもたちを素性に関わらず受け入れ、それぞれの境遇、自己形成に関わる養育者が複数いることに伴う問題について率直に話をすることができるということを子どもたちに示すという同一の目的があります。 そうすることで、子どもが、自分のことについて前向きに考えられるように支援します。 このプロセスは、年間を通じて実施する必要があります。

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