トピック B: 養育者チームとつながりを教える仕事
専門的役目: 長期的な社会的つながりを与えること
専門家として、子どもたちの社会的絆の形成を促し、個人的なつながりを仕事として扱うことが重要です。 場合によっては、子どもたちと精神的に関わりを持つことにストレスを感じたり、そうならないように最初から個人的なつながりを持つことを避けたりする養育 者もいます。 このバランスを取るのは難しいことですが、必要なことです。 専門養育者は、(セッション3で学んだように)子どもの愛着感の形成を促し、大人として、子どもの身になって子どもの気持ちを理解します。 また、仕事としてのつながりというスタンスを維持しながら、子どもたちが個人的な絆を感じられるようにします。
子どもが施設で暮らしている間、一貫して、同一の養育者がその子を担当する安定した居場所にするにはどうすればよいのでしょうか。
子どもが安心し、守られていると感じられるつながりを提供し、子どもと大人の本来のつながりがどのようなものかを学べるよう手助けするには、どうすればよいのでしょうか。
安全基地「家族モデル」の実施方法
長期的な養育者と子どものつながりを育むには、日課と勤務スケジュールのまとめ方を見直して、必要に応じて立て直します。 セッション9「安全基地モデル」では、シフト制という勤務形態で日中に一貫した養育者を子どもたちに割り当てるにはどうすればよいかについて話し合いまし た。 現段階では、依然として話し合いを続けなければならない場合もあれば、 既に、家族のようなグループという枠組みが決定している場合もあることでしょう。
長期的につながりを教える仕事をするために必要なもの
ここで、いくつかの提案やノウハウを紹介します。その後、改善のための提案についてグループで話し合いをするため、 リーダーもこれに参加するとよいでしょう。 また、次回のセッションまでに、ここで紹介された提案の中から、自分のプロジェクトに最も重要だと思うものをいつくか選択します。 必要に応じて、ここでの提案を振り返り、アイデアを追加してください。
子どもグループを担当するスタッフチーム
大規模施設向けの有用な作業モデル は、スタッフをグループ分けして、チームを作ることです。 このチーム単位で実務をこなし、特定の子どもグループの社会的つながり、物理的な世話、愛着行動を担当します。 つまり、長期的に特定の子どもたちを養育する「子育てチーム」となります。
このチームには、毎日、毎週、および毎月の活動計画を立て、子どもたちを観察し、ミーティング向けの報告書を作成し、そのグループの子どもたちそれ ぞれの今後(の行先)について提案する役割があります。 また、子どもたちそれぞれの集団としての自己認識力を高め、養育者との絆を育むことも、このチームが担います。>
チームと子どもグループのサイズ
子どもグループは少人数(最大8名)にすると、親密かつ個人的なつながりを育みやすくなります。 人数が少なすぎると、誰かがグループから外れた場合に傷つきやすくなります。 大人数(9人以上)にすると、子どもたちは多様になりますが、一人ひとりを気に掛ける時間が少なくなります。
乳幼児のグループの場合、親密な触れ合いを考慮して、乳幼児の人数は少なく、養育者の人数は多くする必要があります。
そのため、施設においては、子どもたちは基本的に4~7人のグループで生活するべきであり、日中は、グループをさらに分けて、それぞれに行動したり、他のグループと合同で行動します(例えば、夕食やスポーツは全グループが集合するなど)。
例: 5~8人の子どもたちで構成される3グループが一緒に食事やスポーツをすることもあれば、日中にグループ単位で行動することもあります。 深刻な問題を抱えている子どもの場合、その子を大人数グループの仲間に入れることが困難であれば、家族規模グループの仲間に入れても構いません。 ただし、どの子も、その家族グループを安全基地の拠点と感じられるにようにすることが大切です。
専任養育者システム
グループで生活している子どもたちには、大人とのつながりが極めて重要であり、そのグループの子どもたちとのつながりを深める役割を担う1人(また は2人)の養育者が必要になります。 現場状況にもよりますが、2~4人の子どもたちにとって「親」の役割を果たすのは養育者1人であることが多く、子どもの視点からみれば、専任養育者(主養育者)は、子どもについての重要な決断すべてを下し、子どもが自分の生い立ちについての日記を付けられるよう手 助けし、他の子どもたちとケンカを見守り、仲裁し、仲直りを促してくれる存在でなければなりません。 専任養育者の休職または離職に対しては、現職の専任養育者との別れの準備期間を設け、その中で新たな専任養育者を子どもたちに紹介するといった配慮が必要 です。
また、専任養育者の離席や欠勤については、他のスタッフが、専任養育者を引き合いに出しながら、子どもの要求や質問に答えます。
例:「(専任養育者の)アンナさんは今、ここに居ないけれど、もし居たらら、きっとこうしなさいって言うと思うわ。」
自我形成を支える
その子だけの空間。
どの子にも、子ども部屋の一角やベット、食堂のそのお気に入りの椅子、またはその子とその子の専任養育者だけが開けられる箱といった、その子だけの空間があります。
乳幼児にとっては、 くまのぬいぐるみ、おもちゃ、お気に入りのTシャツといったその子にとって特別なものなどがこれに該当し、 養育者には、その子だけの空間やお気に入りのものが他の子どもたちに侵されないよう守る役割があります。
乳幼児の成長し続ける自己認識能力を支えるには、 鏡で遊んだり、声を録音して聞かせたり、普段の様子をビデオに収めて見せるとよいでしょう。 そうすることで、子どもは自分を認識し、周囲とどのような関係があるかを学ぶことができます。
また、子どものベットやロッカーなどに、その子の写真と目立つ色の名札を貼るのもよいでしょう。
3歳以上の子どもには、その子専用の日記帳を作ります。 毎日、その日の出来事や関心事を子どもに問い、その子の答えを、その子が見ているところ日記帳に書き入れます。 人数や時間に限りがある場合は、これをグループでの活動にして、問いかけに対して考える時間を子どもたちに3分ほど与えます。
時々、その子の様子を写真に収めて、日記帳に貼るのもよいでしょう。 その子の親戚についての情報も、その子と話して、書き入れます。
自我形成を支える
専任養育者がその子の行動の個性的な部分について、その子と話すことで、その子が周囲の集団とのつながりを理解したり、その子の特技や才能を見出し たりすることができます。 子どもの物理的な成長を定期的に測る、例えば、3ヵ月ごとにその子を壁際などに立たせ、背丈を示す目印を入れて、どれくらい背が伸びたかを明らかにすると いったことが挙げられます。
入学前および入学後の子どもにも、別の意味でのその子だけの空間というものがあります。これは、誰からも干渉されることのない計画的な空間です。 行動上の問題を抱えている子どもたちには、常に誰かと何かをし続けるということを苦痛に感じることがあります。聞き分けのない子だからという成り行きでそ の子を一人にするのではなく、その子の息抜きの時間を定期的に設けます。そうすることで、周囲との衝突をあらかじめ抑えることができます。 そのタイミングは、例えば、その子が宿題をする時間など、生活の自然な流れの中で確保されるようにするとよいでしょう。
「わたしたちは、子どもたち一人ひとりの「メモリーボックス」というポスターを壁に貼りましたが、これは大成功でした。 このポスターには、写真や切り抜き、その子の靴などが貼り付けられています。 とても楽しいポスターですが、ときどき、センチメンタルになることもあります。」
- スタッフの体験談 -
グループでの話し合い
(30分)
すでに上記のような取り組みが実施されている場合は、現状に関係のあることのみについて話し合ってください。
- 現在のスタッフチームの規模はどれくらいか。 子どもたちの社会的つながりという点における、スタッフチームの現在の責任範囲はどんなことか。
- 子どもたちの面倒をみることに同一の養育者が日中の長い時間を費やせる作業計画はあるか。
- 可能な限り、そうするには、(現在の)作業計画をどう調節すればよいか。
- このセッションで説明されたように、一定の子どもグループの責任とタスクを担うチームを作れる段階にあるか。 そうでない場合は、どうすればその段階に到達するか。
- 現在の施設に、専任養育者システムというやり方は存在するか。 そうでない場合は、どうすればそれを構成し、改善できるか。
- どうすれば、自我形成を日常的に支えるための提案をどのようにするか()。
- どのような問題に直面するであろうか、それにどう備えるか。