社会的養護下にある子どもたちと性的関心
性的関心は誰にとっても人生の重要な部分であるため、子どもたちは、最も重要な「生命の領域」について養育者から指導を受ける権利があります。 一般に、両親や養育者とって、子どもたちと若者に性的関心と避妊について教える方法を見つけることは容易なことではありません。 また、性的関心は、多くの文化において、道徳と個人のことに関係することから、否定、沈黙、恥、および罪の意識といった側面が絡んでいます。
まずは、親許で暮らせない子どもたちと仕事として接する際に、そのような真に迫ったことに口を挟むことが重要である理由について考えてみましょう。
実際のところ、数多くの理由があります。
物理的および性的な安全境界が欠如している子どもたち
機能不全に陥っている家庭出身の子どもたちの多くは、行動に対する親からの束縛の経験が少ないため、性的な境界も含めて自らの行動における制限が緩くなります。 性的に自虐していることもあります。 同じ施設の子どもたちや養育者から仲間外れにされないようにするために、周囲への振る舞い方を加減するための助けを必要とすることがよくあります。 セッション4「専門的養育の実践アプローチ」では、健全な養育の「敏感になる」というアプローチを学習しましたが、幼少期に子どもが両親や養育者から敏感な反応を得られなかった場合、大きくなってから対人関係において敏感さ(思いやり)が欠けてしまいます。その理由を、ここで改めて理解できます。
親許で暮らせない子どもたちにおいては、性的虐待を受けるリスクや他の子どもたちにそれが波及するリスクが高くなる
小児性愛者のような性的に異常な大人は通常、孤独で感化されやすい無防備な子どもたちをみつけて、虐待目的で友達関係と安心感を与えようとします。 孤独で感化されやすいことが、親許で暮らせない子どもたちの精神状態であることがよくあります。 そのため、子どもたちは虐待者の標的になりがちです。
自尊心の低い子どもたちは(喪失を経験した多くの子どもたちにみられるように)頻繁に、特に年齢が上の子どもたちからの集団暴行、いじめ、嫌がらせなどにさらされます。 これは、精神面または身体面での障がいを持つ子どもにとっても言えることです。 深刻な愛着障害を抱えている子どもたちの多くは、性的な境界の感覚が薄く、他の子どもたちを虐待しようとします。
幼少期に育児放棄(ネグレクト)を受け、強いストレスと剥奪を経験した若者の多くは、通常よりも早く、場合によっては7~9歳という年齢で、身体的な思春期に入ります。 そのため、一般に、人生の早い時期に妊娠する危険があるほか、 性行動の結末を理解するずっと前に、身体的に成熟します。
自尊心の低い10代の若者の多くは、健全な子どもたちに比べると、同年代グループ内の社会的地位を確立しようとして、自分自身を大切にせずに、性的に貢ぐことを覚えるため、 その多くが売春に辿り着いてしまいます。
10代の若さでの妊娠は社会的養護下での前向きな努力を無駄にする
親許で暮らせない10代の若者は、性的な経験が早く、避妊しないがめために性病(HIVなどのウイルス)にかかるおそれがあります。 これは、教養を身に着け、大人として独立できるように取り組んだ施設生活での努力のすべてを棒に振ることになります。 避妊用具を使わずに性的行為に及ぶ10代の若者の10人中9人は、1年以内に妊娠しています。 性的に無知であることが、孤児の56%の学校教育が中等教育で止まり、就職もしないという理由の大きな原因であると考えられます。
知識を伝えることで危険な行動を低減することが養育者の役割
養育者として、すべての子どもたちと若者をこれらの危険から守ることはできないかもしれませんが、専門家として、危険な行動について予め話をし、それを減らせるよう努めることはできます。
情報開示に対する宗教的/文化的制約
その国の文化によっては、子どもたちに、避妊と性感染症の話をすることは、宗教上の制限や禁忌(タブー)であることがあります。 しかしながら、この禁忌を犯すことと、保護者のいない子どもたちにとって極めて高いリスクをはらむという事実とを天秤にかけて、熟慮する必要があります。 つまり、親の保護のない子どもたちに対しては、どの程度のことを子どもたちに教えるかという通常の基準を適用できず、自分を大切にするための情報と対話によってのみ、子どもたちを守れるということになります。 子どもたちや若者に健全な恋愛の心構えを教えることは、一般に、専門的な健康管理実践の一環です。