日々の実践と病院モデルの比較 3/4
デプリベーションの徴候
施設の子どもたちが呈する徴候をできるだけ早く認識できるようになる必要があります。場合によっては、施設に託される以前の親の異常な育児や放棄、または病院モデル式の養育が原因で、子どもたちはすでにこれらの兆候を呈していることがあります。どちらの場合でも、セッション5で説明されている身体的および社会的刺激が必要になります。
ここで、病院モデルで育てられた子どもたちの問題と振る舞いについて、ビデオをみながら考えてみます。このビデオはヨーロッパのとある孤児院で最近(2007年)撮影された様子です。子どもたちは生後、しばらくして、この孤児院に連れて来られました。先天性の視覚障がいやダウン症候群といった身体障がいはあったものの、振る舞いは正常で、スタッフに愛着を形成できる状態でした。しかし、この施設は病院モデルの価値観に基づいて実践をしていたため、子どもたちは身体的に刺激されることなく、一日のほとんどをベッドで過ごし、間もなくすると、デプリベーションのあらゆる徴候を示し始めました。
これは目を背けたくなる状況ではありますが、多くの孤児たちの現実です。仕事の在り方を改めて考えることがなぜ、それほどまでに重要なのかを、ここで認識しなければなりません。
では、ブルガリアのモギルノという町にある孤児院のビデオをみます。その後、施設の子どもたちの中にこのような問題が見られるかどうかについて話し合います。
『Bulgaria’s Abandoned Children(ブルガリアの捨て子たち)』より
Kate Blewett/BBC(転載許諾済み) *このビデオは英語です。
2007年に放送された英BBCのドキュメンタリー『Bulgaria’s Abandoned Children(ブルガリアの捨て子たち)』は、欧州連合に加盟したばかりの国で起きている、放棄された子どもたちの極めて衝撃的な姿を目の当たりにした視聴者らの間に国際的な物議を醸しました。ブルガリアは、欧州のどの国よりも、施設に暮らしている精神的または身体的障がいを持つ子どもの数が多い国です。このドキュメンタリーは、施設での胸が張り裂けるような驚くべき生活にカメラを向けています。
このドキュメンタリーの詳細または全編は、以下のリンクよりご覧になれます。
『part-1, Bulgaria's Abandoned Children Revisited
(ブルガリアの捨て子たちとの再会、パート1)』(英語)
グループでの話し合い
20分『モギルノ』について
モギルノで仕事をしているスタッフは最善を尽くしていますが、日課的な仕事とスケジュールをこなすことに集中するよう指導され、さらに当局からは、施設に暮らす子どもたちはみな、絶望的なケースであるとの説明を受けてきました。つまり、この施設では、病院モデルの価値観が現存しています。
- 子どもたちの振る舞いについて、気が付いたことは何か?
- 子どもたちの発達率について、気が付いたことは何か?
- 自己刺激を試みている子どもたちに気が付いたか?
- 養育者らの振る舞いについて、気が付いたことは何か?
- この施設での実践は、自分の施設での実践と、どの程度異なるか?
- この施設の価値観は、自分の施設の価値観と、どの程度異なるか?
理解度チェック
- デブリべ―ション(剥奪)とは何か?
- デブリべ―ションは、子どもの発達と身体的成長にどう影響しているか?
- デブリべ―ションには、どのような症状があるか?
- なぜ病院モデルの実践がデブリべ―ションを引き起こすのか?
- なぜ病院モデルの価値観がデブリべ―ションを引き起こすのか?
- 自分の施設で、子どもの養育のための前向きな実践と価値観であるといえることは何か?
次のセッションでは、子どもたちが最初に形成した愛着が不安定であった場合に、子どもたちが周囲とつながり方をどう覚えるかについて見ていきます。これも、当然のことながら、実親との接触を失った子どもや、人手不足および病院モデルの環境にある施設で生活する子どもたちにもみられることです。
健全な養育者の振る舞いを実践することで、幼い子どもたち(0~3歳)の不安定な愛着パターンを変え、不安定な愛着をすでに形成してしまった年上の子どもたちの生活を手助けすることができます。