トピックA:グループのアイデンティティ形成 3/3
スタッフグループの役割は、以下の社会的ツールを活用して「村のようなもの」を作ること
- どうすれば、子どもたちにグループに受け入られていると実感させられるか?
- どうすれば、役割、場所や場面、および実際の仕事を活動計画に定義できるか?
- どうすれば、絆と友情を育むことができるか?
- 自分たちの「村」に関連する振る舞いや倫理的ルールは何か?
以下のことにも、実質的かつ環境的な側面があります。
施設にはどのような場所や場面があるのか?さまざまな場所や場面に適用されるルールをどう実践すればよいのか?
1. 施設に託される前に子どもたちが集団において経験したこと
仲間外れ、権限の乱用、親近感の欠如、場所や場面の欠如
孤児との日常的な「村生活」作りは、子どもたちが施設に委託される前に、集団というものについてマイナスの印象を持っていると、一般的な村生活よりも、はるかに難しくなります。
仲間外れ
家庭外に置かれた子どもたちは、お互いを必要としているために一緒に生活しているのではありません。共通点が1つだけあります。それは、他の集団から排除されたということです。ことによると、実親が貧困または家族としての機能障がい、あるいは倫理的、民族的、宗教的、またはその他の理由で社会から疎外された集団に属していた可能性があります。場合によっては、子どもたちの行動面での問題や身体の障がいが原因で、家族や学校といった集団から締め出された可能性もあります。これは、多くの場合、家族、保育所、学校、公園などから何度も仲間外れにされたという一連の出来事に起因します。
子どもたちは何度も仲間に入ることを断られるという対応を受けたがために、新しい養育者と集団を拒否または回避しようとします。そのため、子どもたちが受け入られていると感じられるようにすることが、つながりを教える仕事に含まれます。
権限者の権力乱用
家庭外に置かれた子どもたちの多くは、健全な養育者たるべき人や子どもの権利を守るべき人たちから、冷遇、体罰、放棄、罵り、意地悪、虐待、権力と支配力の乱用などを経験してきています。そのため、スタッフなどが子どもたちの振る舞いを正常に抑制しようとすると、疑心、口論、攻撃、牽制といった反応を示すことがよくあります(セッション4参照)。中には、子どもの権利を守るべき人たちを見限り、あまりにも早すぎる幼少期から「自らが自分の親」になります。
つながりを教える仕事は、子どもたちが、衝突を解決して、条件に合った役割を見つけ、大人の養育者や他の子どもたちに関する境界や支配力を取り除く方法を覚えられるようにすることです。
2. 親近感があり過ぎる、または全くない
子どもたちは、誰にも触れられたことがない、話し相手がいない、または必要以上の親近感にさらされた、例えば、子どもが内緒にしておきたいことを親から強制的に言わされたことや、大人との性的に深い関係または大人からの性的虐待といった、異常なレベルの親近感を経験していることがあります。この場合、子どもたちは大抵、不適切な場面で個人的なことを話したり、他の子どものたちの弱点や秘密を暴露したり、大切なことについては一切、養育者に話すことを拒んだりといった反応をします。
- つながりを教える仕事は、物理的および社会的親密さの適切な度合いがわかるように、さらに他の人の個人的境界を認識し、尊重することを覚えられるように子どもたちを手助けすることです。子どもにとって、敬意と親しみのあるつながりに接することや、他人から助けを得たり、親しみを感じたりすることが初めての経験であることがあります。
日常のリズムと活動における場所や場面の欠如
子どもたちの多くは、日常生活のリズムがないまま、すべての活動が混ざり合い、遮られたために、場所や場面に応じた振る舞い方をしたことがありません。一般に、子どもたちは、キッチンで食べるということの他に、食事中でも叫んだり、遊んだり、口論したり、ケンカをしたり、泣いたりということもします。つまり、さまざまな場所や場面に応じた振る舞い方を知りません。
- つながりを教える仕事は、さまざまな場所や場面において、どのような行動が正常で許容されるのかを学べるよう手助けすることです。
これは、社会的な「村」という集団を築こうとする養育者にとっては難題です。中には、集団化した人がどのようなものであるかということに、極めてマイナスの印象を持っている子どもたちがいます。そのため、一般的な村について2つの考え方が出てきます。つまり、スタッフが考える村と子どもたちが考える村です。子どもグループの子どもたちの大半が、集団での生活と社会秩序を乱す役割についてマイナスの考えを形成している場合には、前向きな養育を提供するだけでは不十分です。
3. 専門的役目:健全な集団を形成する
子どもたちのこのような境遇に対処すべく、施設や里親家庭は集団としてのアイデンティティというものを提供しなければなりません。これは、前向きなもので、寛容に受け入れると同時に、子どもの振る舞いに基準と限界を設定して、子どもたちの社会的経験のマイナスの部分を封じることができます。このバランスの取り方がとても難しいことではありますが、
施設という集団が、健全な集団を喪失したことをできるだけ補える存在にならなければなりません。(診断、マイナスの印象を与えた原因など)子どもたちそれぞれの問題にだけ気を配るのではなく、個別に抱えている問題や足りない部分がどうであれ、価値ある一員になるための振る舞いを子どもに教えることにも注力する必要があります。
このような事情から、社会的なグループを形成する際の専門家としての仕事とつながりを教える仕事のチームが、以下のように定義されます。
日課的な仕事は、日常の活動における明らかなリズムを作り、場所や場面に応じた振る舞い方を明確にすることです。
つながりを教える仕事は、「家族グループ」を提供することで、他のグループから排除された子どもたちをもてなすことに基づきます。この家族グループは、そのグループ自体の日常のリズムが乱されることなく、子どもの問題をそのまま受け入れなければなりません。
4. グループ所属の継続性:同じグループを維持する
施設に委託される前に子どもたちが経験した数多くの壊れたつながりを考慮すると、施設での滞在期間中を通じて安定した家族グループに所属することが最優先になります。
託児所や幼稚園などの一般的な施設では、毎年クラス替えが行われ、新しいクラスで1年を過ごすことになりますが、孤児を、そのような変化にさらすのは好ましいことではありません。施設内のグループは、赤ちゃんは別として、年齢で分けるということはせず、いったん家族グループに入ったら、その子どもが何歳になろうとも、そのグループを基地として捉え、そのグループ内の同年齢または異なる年齢の子どもたちとのつながりの恩恵を受けられるようにしなければなりません。グループ内の他の子どもたちが、長期の社会的つながりについて学ぶ機会になります。
「家族グループ」の調整は、場合によっては、例えば、10代の子どもたちが同年代の子どもたちと生活することが好ましい場合には、あり得ることです。
一般に、少なくとも1歳半から12歳までの子どもたちにとっては、同じ「家族グループ」で生活をすることにメリットがあります。